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その日の深夜、私は電話番号119番の人と話していた。
私はまず、聞かれるがままに、救急であること、そして私の住所(実際には、その時はその当時の恋人の家にいたので、うる覚えのそこの住所)を伝えた。
そして現状を聞かれた時、私は頭の中を整理しよう整理しようとしながらも、整理できずにいた。そしてどう説明すればいいのか、すぐに判断ができずにいた。
私はまず、症状から言うと、恐ろしく気分が悪いのだ、という事を伝えた。
そして、ひとつひとつ、自分でも整理できていない、私の置かれた気味の悪い状況を話していった。
ただ単に気分が悪いだけでは、いくら激しく気分が悪くても救急に電話したりはしません。でもただ気分が悪いだけじゃないんです。
目が覚めたら、棺おけの中にいたんです。
僕にも何がなんだかよくわかりません。でも、棺おけの中に寝かされていたのだから、おそらく死んでいたのだと思います。だから、気分が悪いだけでも怖いんです。また死んでしまうことが。
今確認できる範囲では、大きな外傷はありませんから、事故ではないと思います。ただ、ずっと前から、慢性的な頭痛に悩まされており、時には激しく痛むことがあったので、友人との間でも「プチ脳梗塞」じゃないかという話があったんです。そして今は恐ろしく気分が悪いから、死んだ原因は脳梗塞じゃないかと思います。
家族の者はまだ起こしていません。だって、死んだと思った人が動いていたら誰だって失神しますよ。それに、ぬか喜びさせてまた死んで悲しませてしまうのはつらい。だから、今はこっそりと電話をしています。
自分でも気味が悪いんですけど、もしかしたら幽霊みたいなものになってしまっているんじゃないかということも考えました。でも、自分が出た後の棺おけの中にはもう何もないですし、幽体離脱みたいな状態ではありません。
それに、幽霊だなんてことを考えるよりは、一回死んでその後蘇生したというほうがまだ現実的だとは思いませんか。どちらも可能性としては低いんだろうけど、まだ現実的ですよね。
今は本当に、恐ろしく気分が悪いんです。立ってはいられないので、床を転がりながら電話をかけています。
何とか一階までは降りていきます。そこから病院へはお願いします。
国道のエネオスを入ってすぐのところです。
お願いします。お願いします。
エレベーターから這いずり出て、街路樹のそばに倒れこんだ。救急車はすぐに到着し、私はなされるがままにしながら、恋人のことを考えていた。
死んでしまうなんて、最低の不幸をプレゼントしてしまった。彼女の未来をぶち壊してしまった。お詫びしようにも何もできない。おそらく彼女は、僕の後を追って死ぬだろう。それを彼女の父親や母親も、おそらく止めないだろう。彼女にとっては、私との生活が唯一の希望だったのだ。それをまわりの皆がよく知っていた。私の命は私だけのものではないと知りながら、最低の結末を迎えてしまった。私は最低の人間だ。ああ、彼女に頼まれていた本棚の組立てもしてやれなかったな。私がろくに読みもしない本を大量に集めるから、と、そんな私を許してくれて、用意してくれた大きな本棚。まだ組立前なのにもかかわらず、人がすっぽり入る大きさの箱に入った大きな本棚。はやく組立ててくれとせがまれていたのに、私は仕事の付き合いだから、と、毎晩遅くまで飲み歩いてしまった。最低の人間だ。それでも、一応は、真夜中に帰宅して組み立てようと・・・した・・・ような気が・・・箱から出して・・・
翌日、私は退院した。命には別状はないそうだ。
気分の悪さはまだ直っていなかった。自宅のベッドで静養していた。
洗面器を枕元に置いて。
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