24hoursjr.gif

2006年09月06日

死亡の思い出

最初に断っておくが、これは数年前に私が実際に体験した話である。

・・・・・・・・・・

 その日の深夜、私は電話番号119番の人と話していた。
 私はまず、聞かれるがままに、救急であること、そして私の住所(実際には、その時はその当時の恋人の家にいたので、うる覚えのそこの住所)を伝えた。
 そして現状を聞かれた時、私は頭の中を整理しよう整理しようとしながらも、整理できずにいた。そしてどう説明すればいいのか、すぐに判断ができずにいた。

 私はまず、症状から言うと、恐ろしく気分が悪いのだ、という事を伝えた。

 そして、ひとつひとつ、自分でも整理できていない、私の置かれた気味の悪い状況を話していった。




 ただ単に気分が悪いだけでは、いくら激しく気分が悪くても救急に電話したりはしません。でもただ気分が悪いだけじゃないんです。
 目が覚めたら、棺おけの中にいたんです。
 僕にも何がなんだかよくわかりません。でも、棺おけの中に寝かされていたのだから、おそらく死んでいたのだと思います。だから、気分が悪いだけでも怖いんです。また死んでしまうことが。

 今確認できる範囲では、大きな外傷はありませんから、事故ではないと思います。ただ、ずっと前から、慢性的な頭痛に悩まされており、時には激しく痛むことがあったので、友人との間でも「プチ脳梗塞」じゃないかという話があったんです。そして今は恐ろしく気分が悪いから、死んだ原因は脳梗塞じゃないかと思います。
 家族の者はまだ起こしていません。だって、死んだと思った人が動いていたら誰だって失神しますよ。それに、ぬか喜びさせてまた死んで悲しませてしまうのはつらい。だから、今はこっそりと電話をしています。
 自分でも気味が悪いんですけど、もしかしたら幽霊みたいなものになってしまっているんじゃないかということも考えました。でも、自分が出た後の棺おけの中にはもう何もないですし、幽体離脱みたいな状態ではありません。
 それに、幽霊だなんてことを考えるよりは、一回死んでその後蘇生したというほうがまだ現実的だとは思いませんか。どちらも可能性としては低いんだろうけど、まだ現実的ですよね。
 今は本当に、恐ろしく気分が悪いんです。立ってはいられないので、床を転がりながら電話をかけています。
 何とか一階までは降りていきます。そこから病院へはお願いします。
 国道のエネオスを入ってすぐのところです。
 お願いします。お願いします。



 エレベーターから這いずり出て、街路樹のそばに倒れこんだ。救急車はすぐに到着し、私はなされるがままにしながら、恋人のことを考えていた。
 死んでしまうなんて、最低の不幸をプレゼントしてしまった。彼女の未来をぶち壊してしまった。お詫びしようにも何もできない。おそらく彼女は、僕の後を追って死ぬだろう。それを彼女の父親や母親も、おそらく止めないだろう。彼女にとっては、私との生活が唯一の希望だったのだ。それをまわりの皆がよく知っていた。私の命は私だけのものではないと知りながら、最低の結末を迎えてしまった。私は最低の人間だ。ああ、彼女に頼まれていた本棚の組立てもしてやれなかったな。私がろくに読みもしない本を大量に集めるから、と、そんな私を許してくれて、用意してくれた大きな本棚。まだ組立前なのにもかかわらず、人がすっぽり入る大きさの箱に入った大きな本棚。はやく組立ててくれとせがまれていたのに、私は仕事の付き合いだから、と、毎晩遅くまで飲み歩いてしまった。最低の人間だ。それでも、一応は、真夜中に帰宅して組み立てようと・・・した・・・ような気が・・・箱から出して・・・


 翌日、私は退院した。命には別状はないそうだ。
 気分の悪さはまだ直っていなかった。自宅のベッドで静養していた。
 洗面器を枕元に置いて。
posted by nimmix at 00:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月25日

羊男、再び

 沖へ捨てた手紙が無人島に流れ着いたという電報が、入った。僕はその幾分日焼けして黄ばんだ手紙を受け取ったまま、体を動かすたびに軋むベッドの上でしばらく考えあぐねた。きっと羊男の仕業に違いない、僕はそう確信していた。しかし羊男は3年前に死んだはずだった。もう一度確かめる必要が生じた。手帳の後ろに書いていたドルフィンホテルに電話をかけた。しかし何回かけてみても、ずっと話し中だった。僕は洋服ダンスの中からダッフルコートを取り出し、5分で荷物を支度すると、電報が入ってから10分後にはスバルに乗って北海道へ向かっていた。
posted by willow at 15:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月22日

リ ア リ テ ィ B

「もし、たった今起きた殺人事件で、私が疑われたらね」

 それまでの数分間の沈黙を破り、維子は唐突に、「殺人事件」というテレビか小説の中でしか聞かない、現実味のない話題を持ち出してきた。

「私にはアリバイがないの」

勘のおそるべく鈍い私は、「あなた、おとといの晩、どこで何をしていましたか?」という高橋英樹が思い浮かぶまでに、「開け、ゴマ」というアリババや、モハメド・アリや、アリを売る老婆を経由しなければならなかった。しかし思いついてみれば簡単なことである。たった今起きた殺人事件で維子が疑われたら、僕といて不毛な話と沈黙をしていた、というアリバイがあるじゃないか。

「僕がいるじゃないか」

そういうと維子は、やれやれ、という風に視線を空中で移動させ、最後に僕のほうを見た。

「あなたには社会的信用が全くないじゃない。わかっているでしょう」

最初はクレジットカードを持っていないことを言っているのかと思ったが、おそらく僕が無職であるということを言っているのだろう。無職で、車の免許もなく、就職面接どころかバイトの面接にも通らないことを言っているのだろう。その話は何度と無く二人の間で出た話である。

「別れましょう」

とうとう維子は、別れを切り出してきた。別れを切り出されたのは初めてのことだ。しかし、この話はどうもおかしいような気がする。何かが気になる。そんなわけで僕は、サスペンスでアリバイが完璧な人が逆に疑われるように、この別れ話が逆にプロポーズであるかのように感じていた。
posted by nimmix at 22:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月20日

リ ア リ テ ィ A

買ってからまだ一ヶ月しか経っていない自転車の調子が悪くなったので、私は自転車を購入した自転車屋へと持っていった。

自転車屋さんは意外と混んでいた。日曜の自転車屋はこんなに繁盛するものなのだと言うことを初めて知った。待たされていた15分ほどの間に、ピカピカの自転車が2台売れた。ピカピカの自転車を見送った後、受付のお姉さんが私の用件を聞きにきた。

「この自転車にはリアリティがない。」

整備服よりもタイト・ジーンズにキャミソールのほうが明らかに似合うそのお姉さんに向かって、私は文句を言った。整備服の上から想像するキャミソールは、やたらとリアリティを持っていた。私にこの自転車を勧めた顔の黒いおじさん整備士のほうを見ると、おじさん整備士は、今日、自転車を買ってもらったばかりの子供に運転の説明をしている。

「じゃあ、ちょっと見せていただけますか?」
お姉さんはそう言って、私の自転車を店の中へと連れていった。

「タイヤの分解とかされましたか?」
「いいえ」

お姉さんは自転車の横に座り込み、タイヤを気にしているようだった。
私は時間を気にしていた。
時計を見た。
おじさん整備士はまだ、子供に説明を続けている。


「直りました」



「え?」

きゅっ、とブレーキの音をさせた私の自転車は、見事にリアリティを取り戻していた。ほんの10秒ほどの間に、何が起こったのだろう?私の自転車を直してくれたお姉さんの、整備服はリアルで、キャミソールはリアリティを失った。
posted by nimmix at 14:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リ ア リ テ ィ @

リアリティを欲している
Reality of Gravity
Reality of Atmosphere
Reality of Space
Reality of ... Reality

なぜ?わからない。

生後間もない赤ん坊の笑顔にリアリティが感じられなかった。

なぜ?わからない。

私の感性が時代を超えすぎているという分析にはリアリティがない。

私の五感を一つに統一した心の目で
精一杯に読んだ空気の中は
リアリティのない要素で溢れ返っていて

リアリティのない要素を集結して
リアルな空間が形成されている。

そんなリアルな空間の中で
私は空気をフィードバックして
リアルな私を制御して
そんな私は一つの要素として
リアルなのか?
客観的に見たいと思うけれど
判断基準自体が主観的で
リアリティというのは確かに不確かで

私のいるこの空間から
私と言う要素を取り払ったとき
どのような平衡状態に
リアルに落ち着くのか
想像することができない。
posted by nimmix at 14:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月18日

私がその山に登ったのは

  私がその山に登ったのは、まだ残暑の厳しい9月の初頭のことであった。その頃私は大学を2年も留年しており、半ば現実逃避をして登ることを決心したのである。その山は、私の古くからの友人であるKに教えてもらった。Kは中学生の時の同級生で、色々進学のことや人間関係のことを相談していたのだが、相談する度に、あの山は良かった、あの山は良かったと言うのである。しかし私は今日まで躊躇していた。何しろその山、七星山は、険しい山で有名で、おまけにハブの生息地としても有名だったからである。私の祖母の妹であるIはその付近で中学校の教師をしていたことがあるが、その50年前の当時から言われていたことなのである。最近はだいぶ整備されているとのことだが、それでも厳しいことには違いなかった。私はホームセンターで麦藁帽子と、厚手の登山服を購入した。そしてその山に登ったのである。
   ☆
当日の朝、風が強く吹いていた。天気は曇り。今にも雨が降り出しそうな気配であった。私は登山することをK以外の誰にも言われなかった。死んだら死んだで仕方ないとも思っていた。
 山を登り始めても、私のほかには誰も居なかった。行きかう毎に「こんにちは」と声をかけるのを唯一の楽しみにしていたのに、がっかりした。しかしそんな甘い考えがあったことに反省し、気を引き締めた。
 歩く度に小枝の折れるパキッという音が響き渡る。上を見上げると鳥が――カラスがほとんどだ――啼いている。しばらくすると、ほら貝を吹く音が遠くから聞こえてきた。何度も、何度も。その後、無数の人々の駆け足の音、ザッザッザッザ……という音が聞こえてきた。それは段々こちらに近づいてくるように感じられた。そしてその感覚は次第に確信を増してきて、私はにわかに恐ろしくなり木の根でできている穴に身を潜めた。しかし運の悪いことに、そこはハブの巣窟だったのだ。私は身を防御する間もなく、あっという間に4,5匹のハブに体中を噛まれてしまい、小さな悲鳴とともに気絶してしまった。何分経ったのだろうか。私が再び目を覚ますと、ランプのやわらかい明かりが目に入ってきた。そして麻の肌触り。私はある洞窟で介護されていたのだ。
「気づいたか。」声の聞こえてきた方を振り返ると、黒いロープを身にまとった一人の老婆がスープを持ってきて私のもとに近寄ってきた。
「カイという者だ。安心するがよい。もう峠は越えた。お前は2日間ずっと眠っていたのだ。」私はまだ朦朧としていた。カイの言った言葉を頭の中で何度も何度も反芻してようやく呑み込めた。しかし、喋ろうとしたが声がかすれて無理だった。
「無理せんでいい。ゆっくり養生しなさい。ほれ、このスープを飲みなされ。」
私はカイに渡されたスープを一気に飲み干した。とてもあっさりした魚介類の味がした。うまかった。
posted by willow at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月17日

幽霊

従兄弟に首を絞められた時、俺はチャンスだと思った。

俺は体を抜け出て、維子のもとへ行った。

維子は新しい彼氏とやらと、セックスをしようとしていたところだった。

俺は彼氏の首を思いっきり絞めて、首の骨までぐいっと折ってやった。

動転する維子の背中から声をかけたら、俺に気付いて、掴みかかろうとしてきた。

でも、その手は空を斬った。

posted by willow at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月11日

060811

 真夜中いじくる蝉の音で目が覚める、とブラインドから二つの目玉が飛び出し、それは誰?という問いも部屋の中までは伝わらず螺旋して沈み、僕はもう一度ドアを叩くと、女性の息遣いがまもなく聴こえてきそうになり思わず手と手をこすり合わせる始末で、しかし誰も見てないし臭ってもこない、これは一体なんだと思い、少し後ずさると後ろからは熱風が吹き荒れて、小さくなり、僕はゆっくりとゆっくりと少しずつ少しずつうろたえゆく魂を何とか保ちつつ保ちつつ、再び耳を傾けようという掛け声、運動場、運動場の国旗が揺れている、揺らしているあの子、あの少女はいつか見たフラッシュバックかと思われた次の瞬間彼女は屋上へワープし、ああ歩くのが早いな、とため息をつくその空気がまたたくまにマスクに汚染されていってるような気もするが、しかしそんなことはないと彼は言う、彼、舎利子舎利子舎利子舎利子……こだま、輪唱する音楽の先生と先生もしも先生が破滅に陥るようなことがあれば僕は助けるだろうか、しかし僕は知っている、あなたたちの正体を、断るべきではなかったが、しかしあの会食ではあなたたちは余りにも余りで、よくもそういうことが起こりえたなと普通、普通、普通の人ならばそのままやり過ごすということもできず、僕はまた佐久間ドロップスを舐めさせられる、赤、青、白、透明、……透明?透明、僕は透明で何も見えないのかもしれないが、しかしそれでもなお僕は浸かっている、浸かっている浸水が彼女にも伝わってきた、彼女の手に、美しい手も侵されて、耳を塞いでトンネルの中なんだからと君が言いそうになったのを僕は止めようと必死に彼女の口に手を当てようともがくのは僕なのか彼女なのか、よくわからないようになってきたような気がするんじゃないだろうか、いやしかしけれど実際には僕は何も口にしてないんじゃないだろうか、一切れのパンも、レーズンのふんだんにまぶされたあのパンが僕を誘っているなんて言ったら川口はきっと睨む、睨むはずさ、黒板用のコンパスを持ち出してきて、僕は川口に説教されるのを黙って見過ごすことができるわけもなく、三角定規の、真ん中に空いている、ぽっかりと空いている穴をずっと見つめて僕はそう、そうゆう風に旅立とうなんていうのか、いうのか?んんんんんんんん「もしも川口くんが藤棚だったらなんておいしいんだろう?変わってくれないか?変わってくれないか?」喪服の彼女、涙をハンカチーフで拭い、ひたすらお経を唄っているようで、気持ち悪くなったらトイレに行くんだよとお母さんに教えてもらったのだろうか、そんなことしなくてもいいはずなのに、僕はやっぱり、ちょっとだけ、唇がはみ出している人が好きだと思うようになってきたような気がする、と兵頭君の筋肉がもりもりとグリコーゲンを消費しながらハムナプトラを上映しますか?上映しますか?と駆け寄ってくるのが見えたらしいです、とお客さんがアナウンスするもんだから、僕、どうしようもなくなっちゃって、洗面器に水をいっぱい入れてかぶってみたら、ちょっと生ぬるかったっちゅうねん、と西川くんに言われたら僕はもう生きてゆけないかもしれないと少し自虐が入り入り、そしてもっと深く入り、怒りが頂点に達するころ、彼女はなぜか飼っているダックスフントを連れてダムに行く途中で、僕は彼女の車の中をよぉく点検してみたら、どうもうそ臭いパズルが見え隠れしているようで、ちょっと不気味になり、彼女の肩をぽんぽんと叩くと出てくる出てくる偽札の束、束、束、って僕は気づかれないうちに戻しておこうと誰かがいう、そうだ伊坂さんが言ったんだ、そうに違いないなんて客席の方からやじが飛んできたりしてね、まったく笑っちゃうよね、笑っちゃう、……え?笑っちゃうところがわからない?そうそうそう、そうやねんそうやねんと関西弁ばっかり使うと君はいつかぐさっと後ろから刺されるよという使い古されたフレーズなんて、使わない手はないと、オーストラリアの警察が言ってたと、ミーちゃんが言っていたような気がするけれど、いったいミーちゃんて誰なのさ?そうそう、僕んちの家の近くに住んでいるあの子のことだろ?って、俺が聞いてどうすんだよぅという言葉でふっと思い浮かんでくるのは中学生の時の担任の先生の子供二人と奥さんが来ている中、僕らは花火をやっていたんだけれど、アキラはもうそのころ随分ぐれちゃってて、外交官になりたいなんていってたくせに、ポケベルなんて一丁前に持っちゃって、公衆電話に入り浸っている姿は見たくないとまでは言わないけれど、年賀状出すの忘れとったと言わずに、年賀はがきが余ってなかったという言い方はどう処理すればいいのかわからず途方にくれたまま、カラスの襲撃を実は期待しているおっさんの箒についているバーコードを丁寧に憶えて僕は記憶力のよさを自分で褒めているんだけれど、実はそれはニンテンドーDSというポータブルなゲーム機っちゅうよくわからんものにソフトを突っ込んで、寝ている間に二階から飛び降りてしまおうなんて人がいっぱいいるという
posted by willow at 00:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月05日

フィヨルドの女

 フィヨルドの狭間でもがき苦しんでいる少女を助けた。名前はリサ。高校生くらいに見えた。彼女は多くを語らず、ただからだを小刻みに震わせているだけだ。僕は上着を脱いで彼女の肩に羽織ってやり、肩を抱いて僕の泊まっている木造作りのモーテルに連れて行った。モーテルの中はまき割りのストーブが焚いてあり、とても暖かい。宿舎のおばさん(少しお節介)がコーンスープとパンをリサに渡すとすぐに平らげた。よほどおなかが減っていたのだろう。いったい彼女は何日の間、フィヨルドに挟まっていたのか訊いてみたが、途中で意識を失ったりして、よくわからないとのこと。なんでも、スキーで遊んでいたときに誤って落ちたらしい。付き添いの人が心配しているだろうと言うと、そんな人いやしないわと言い、そっぽを向いた。なにか訳があるのだろう。それ以上は訊かないことにした。辺りはもう真っ暗で、時計を見ると午前3時を示していたので、彼女をベッドに寝かせ、僕は床の上に赤い寝袋を用意し、寝た。彼女は窓から月明かりが入ってくる一室で、こんなことを話した。
「私、あの崖に落ちている間ね、ずっと空を見てたの。それも、夜の空よ。夜の空って、星がいっぱい見えるでしょ。都会では見えないけれど、ここではよてもよく透き通っていて、よく見えるの。その星を見ていてね、あの星、何て名前の星だったっけと思い出したりしたんだけど、結局、北極星とかオリオン座とか有名な星座しかわかんないのね。で、その星座の間にいっぱい星があるわけじゃん。で、その一つ一つにもきっと名前がついてんだろうなあと思うと、むしょうに知りたくなってね。でも星の名前って、全部人が勝手につけただけなんだから、くだらないといえばくだらないんだけどね。」
 僕はふうんとしか言えなかった。やがて彼女の寝息が聞こえてきた。よく眠れ――。
 翌朝、僕は随分寝坊してしまい、不覚にもリサに起こされた。11時だよ、という声が一体誰からの声なのかしばらくわからず、現実なのか夢なのかよくわからなかった。
 宿舎のおばさん(吉田さん)はホットサンドを作ってくれていた。とてもおいしい。苦手なトマトもすごく甘味が出ていた。
 リサ、これからどうするの?と訊いてみた。
 どうしようかしら。まあとりあえず埼玉のアパートに戻るわ、と言った。埼玉に住んでんだ、と聞くと、
「うん、そうよ。あなたは?」
「俺は、横浜の方。」と答えた。
「横浜か。いつ帰るの?」
「27日からまた仕事があるから、今日帰るよ。」
 ちょっと私の部屋に寄ってみないか、と言われ、幾分興味があったので、僕の車で埼玉に行った。
 翌日の朝、アパートについた。彼女のアパートは2LDKで一人で住むにはちょっと広すぎるような気がした。あまりモノが置いていなかったので、とりあえずテレビをつけたら、NHKで漫才の番組をやっていたが、あまりおもしろくなかったので、ミニコンポでジャパニーズポップスを聴いた。コタツはすぐに温かくなり、眠気が襲ってきて、みかんを食べながら眠ってしまった。
 夢の中で僕は森の中、野生動物の足を挟む鉄製の罠にひっかかっていた。やがて猟犬がやってきて僕の左腕を食べていると、猟師が現れて猟犬を銃で撃った。そこで目が覚めた。
 目が覚めると、靴下が脱げかかっていた。
 彼女はお餅を電子レンジで温めていた。
「しょう油つける?それともきな粉がいい?」
「しょう油ときな粉と砂糖のミックス。」
「了解。」
 僕はひどく汗をかき始めた。お餅を食べると余計に汗が出てきた。
「ところで、リサさんは何歳?」
「ええと、19。」とリサは答えた。
「何してる人?」と僕は聞いた。
「何もしてない。つい最近までテレフォンアポインターの派遣社員をやってたけど、やめたの。色々あって。」
 彼女はあまり僕のことについて訊いてこなかったが、
「スキーは何年目?」と訊いてきた。
「大学1年生のときからだから、7年目。」
「そう、結構やってんだね。」
「本当はね、スノーボードやりたかったんだけどね、スノボーサークルの人と喧嘩しちゃってね。」
 リサはあまり興味をしめさなかったので、そこで会話は途切れた。本当の所、僕も何を話せばいいのかよくわからなかった。
 壁にはセックスピストルズのポスターが貼られてあったけれど、ロックンロールと言えるようなCDは一枚もなかった。
 音楽にはそれほど興味がないの、とリサは言った。
「ねえ、ちょっとスーパーに買い物に出かけない?」
「いいよ。」
 夕食はカレーライスを一緒に作り、食べた。
 その晩は何も起こらなかった。
 翌日、僕は帰ると言ったら、ちょっと私も横浜に見物でもしに行こうかななんて言うので、車に乗せて行った。横浜の中華街の近くを通り過ぎるとき、突然リサは「歩く」と言い出したので、駐車場に車を入れて一緒に歩いた。そこで名物の餃子とラーメンのキーホルダーを買って帰った。
「昔、ケータイに新幹線のストラップをつけたことがあるよ。」と言ったら、くすっと笑われた。
posted by willow at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月31日

『たくあん』

 道端に黄色いたくあんが落ちていた。学校からの帰り道だ。普段ならそ

んなもの気にも留めないのに、その日は自転車がパンクして、バス停まで

歩いていたのだ。

 そのたくあんには、虫はたかっていなかった。防腐剤やら発色剤やらが

寄せ付けなくしているのだろうか。いや、全く関係なくて、つい今しがた落

下したばかりのものなのかもしれなかった。とにかく、私はしゃがみこんで

そのたくあんをよく観察してみた。すると気のせいか、微かに動いているよ

うに見えた。次の瞬間、跳ね返っておでこにぺったりとくっついた。私はひ

どく動揺して、おでこにくっついたたくあんを必死でもぎとろうとした。しか

し、たくあんは取れない。そうこうしているうちに、前方から話し声が聞こえ

てきた。茶色いエクステンションをつけたふわふわの女子高生2人がこちらに

向かって歩いてきた。私は2人が通り過ぎる間、右手でおでこを隠してしの

いだ。

 彼女たちが過ぎ去った後、おでこを触ってみると、たくあんが消えていた



posted by willow at 22:52| 愛媛 晴れ| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。